人生の前半では『ダイエットのために我慢』『体型維持のために制限』と、食事を”コントロールするもの”として捉えてきた方も多いと思います。けれども50代以降、人生の後半戦に差し掛かると、食事に求めるものは少しずつ変わってきませんか?『食べたいものを好きに食べられる』『大切な人と一緒に美味しいものを味わえる』『最後まで甘いものを楽しめる』そんな”食の喜び”こそが、人生を豊かにしてくれる大切なエッセンスになります。しかし現実には糖尿病や生活習慣病で食事制限を余儀なくされる方が少なくありません。特に『血糖値の急上昇』が積み重なった結果、好きなものを食べられなくなるのはとてもつらいことです。だからこそ今から意識して欲しいのが、『血糖値を乱さない食事の工夫』です。これは制限のためではなく、”最後まで甘いものを楽しめる体でいるため”の準備です。
血液検査データが教えてくれること
私は臨床検査技師として、日々たくさんの血液検査データを見てきました。血液検査の数値は、まさに毎日の生活習慣を映し出す『鏡』のようなものです。特にHbA1cや空腹時血糖は、甘いものや食事の取り方がダイレクトに反映される項目です。数値が安定している人は、食事や生活にある程度の工夫をしている方が多く、反対に乱れている方は『食べたいものを制限せざるを得ない』状況に陥っていきます。血糖値の安定は”食の自由”を守るカギです。そして大事なのは、『データを気にするのは我慢のためではない』ということ。むしろ、数値を安定させることが『甘いものを最後まで楽しめる』人生につながるのです。
甘いものの魔力とリスク

甘いものはどうしてこんなに魅力的なのでしょうか。それは、糖分が脳に”快感物質”をもたらすからです。甘いものを食べると脳内にドーパミンが分泌され、一時的に幸福感ややる気を感じます。だから『やめられない』『つい手が伸びてしまう』のは自然なこと。これは意志の弱さではなく、脳の仕組みそのものです。一方で甘いものを食べた直後に起こるのが『血糖値の急上昇と乱高下』。これを繰り返すと、インスリン分泌に負担がかかり、やがて糖尿病や合併症に繋がってしまいます。若い頃は体が回復力を持っていましたが、人生後半戦に入るとその負担が積み重なり、数値にはっきりと現れてきます。だからこそ、『どう食べるか』を意識することが大切になるのです。
血糖値を爆上げしない工夫
ここからは、甘いものを”我慢せずに楽しむ”ための具体的な工夫をご紹介します。食後に血糖値が急上昇することを『血糖値スパイク』と呼びます。このスパイクが繰り返されると、体はジェットコースターのように上下を繰り返し、だるさや眠気を感じやすくなるだけでなく、血管が傷つき続けることで長期的には、糖尿病や動脈硬化などのリスクを高めてしまいます。大切なのは、できるだけ緩やかなカーブにすること。血糖値をなだらかに保つことで、体に負担をかけずに食事や甘いものを楽しみ続けることができます。
食べる順番を意識する

野菜→タンパク質→炭水化物→甘いものこの順番で食べることで、血糖値の急上昇を防ぐことができます。特に野菜やタンパク質が先に胃に入ると、糖の吸収スピードが緩やかになり、血糖値スパイクを抑える効果が期待できます。食べるスピードにも注意が必要です。ゆっくり噛んで食べましょう。
朝のタンパク質をしっかり摂る

朝食は『エネルギー補給』だけでなく、筋肉を守るためのスタートラインでもあります。特に50代以降は筋肉量が年々減少していき、放っておくと1年で1%近く失われるとも言われています。筋肉が減ると単に足腰が弱るだけでなく、血糖値を調整する力も低下してしまうのです。前回記事の『筋肉貯金』の話とつながっているのですが、ここで大切なのがタンパク質。タンパク質は筋肉の材料となり、朝にしっかり摂っておくことで、1日の活動の中で筋肉が分解されにくくなります。朝の食卓はパンとコーヒーだけ、あるいは果物だけ・・といった”タンパク質不足メニューになりがちです。これでは筋肉を支えるには不十分。卵や水切りヨーグルト、納豆や豆腐、チーズ、豆乳などを朝に取り入れることで、血糖値の安定だけでなく筋肉の維持にもつながります。筋肉を資産のように積み立てていく考え方は『筋肉貯金』と呼ばれます。血糖値を安定させながら、長く食事を楽しむために、今のうちからコツコツと積み立てて、『筋肉貯金』と『甘いものを楽しむ体づくり』が両立できるのです。
【朝のタンパク質をしっかり摂る具体的なメニュー例】
厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)では成人女性の場合、1日に必要なタンパク質量は約50gが目安
・卵料理:ゆで卵、スクランブルエッグ、オムレツなど。1個で約6〜7gのタンパク質
・納豆+ご飯:納豆1パックで約8g。ご飯に乗せれば血糖値の急上昇も抑えやすい
・ヨーグルト+ナッツ:ヨーグルト100gで約4g、ナッツを一掴み入れれば栄養バランス◎
・豆腐と味噌汁:豆腐1/2丁で約10g。温かい味噌汁に入れれば消化にも良い
ポイントは『炭水化物単品の朝食にタンパク質をプラスする』ことです。例えばパンだけで済ませていた朝食にゆで卵やヨーグルトを添える。それだけで血糖値の乱高下を防ぎ、午前中の体も安定します。
甘いものを食べる時間を工夫する

甘いものを食べるなら、朝食〜昼食の間か昼食〜夕食の間にしましょう。午前中から日中は、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きが安定している時間帯です。逆に夜間は睡眠ホルモンの『メラトニン』の影響でインスリンの分泌が抑制されやすい時間帯となります。
人生後半戦の食事のゴールは『最後まで楽しむ』こと

50代以降の食事の目的は、単に『病気にならないため』だけではありません。大切なのは、人生の最後まで『食べること』を楽しめる体でいることです。特に甘いものは、多くの人にとって小さな幸せを感じさせてくれる特別な存在。だからこそ『もう食べられない』と言われるのはとてもつらいことです。では、そのゴールを叶えるためには何が必要でしょうか?それは『バランスよく食べること』を日常のベースに置くことです。野菜やタンパク質をしっかり摂り、血糖値の急上昇を防ぐ食べ方を習慣にする。筋肉を落とさないように朝からタンパク質を意識して補う。こうした小さな積み重ねが、血糖値を安定させ、内臓や血管を長持ちさせてくれます。つまり、普段の食事で体を整えるからこそ、甘いものを心から楽しめるのです。甘いものを”悪者”にする必要はありません。むしろ摂る時間に気をつけながら、バランスの取れた食生活の中に組み込むことで、罪悪感なく幸せな時間になります。そして人生の後半戦だからこそ、『好きなものを最後まで味わえる』こと自体が大きな喜びです。健康は我慢の連続ではなく、食べたいものを楽しむための土台づくり。その視点で日々の生活を整えていけば、未来の自分はもっと笑顔でいられるはずです。
まとめ
人生の後半戦の食事で大切なのは、『好きなものを食べ続けられること』です。特に甘いものは幸せを感じさせてくれる存在。だからこそ、最後まで楽しめる体でいることがゴールになります。そのために必要なのは難しいことではありません。まずはよく噛むこと。食べ過ぎを防ぎ、消化吸収も緩やかになり、血糖値の急上昇を抑えられます。次に筋肉を保つこと。筋肉は糖を取り込んでくれる”血糖値の貯金箱”です。毎日のタンパク質を少しだけ意識し、軽い筋トレや散歩を続けることで、将来の自分を助けてくれます。
そして血糖値スパイクをなるべく緩やかにする工夫。野菜から食べる、甘いものは午後3時に決める・・。そんな習慣の積み重ねで健康な体を保ちましょう。健康は我慢のためではなく、楽しみを持ち続ける力。今日のひとくちを意識することが、未来の『おいしい』を守る第一歩になります。
最後までお読みくださりありがとうございます
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